水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
Print ISSN : 0915-1389
ISSN-L : 0915-1389
英米および世界銀行によるアスワン・ハイ・ダム建設への援助中止を招いた諸要因に関する考察
中山 幹康
著者情報
ジャーナル フリー

1996 年 9 巻 4 号 p. 340-350

詳細
抄録
1955年10月に世界銀行,米国,英国はエジプト政府に対してアスワン・ハイ・ダムの建設に援助を借款と贈与によって与えることを決定した.しかし,1956年7月にアメリカ政府がアスワン・ハイ・ダム建設のための贈与を中止し,英国と世界銀行も援助の中止を決めた.エジプト政府はその報復として当時英仏の支配下にあったスエズ運河会社を国有化した.その結果,同年10月にはスエズ危機が勃発した.アメリカ合衆国が援助を中止した理由としては,エジプトのソ連および東側諸国への接近を米国が嫌ったことが最大の理由であり,加えて,米国南部を選挙区とする議員からの反対,ソ連による援助との競争の回避,親米的な諸国からの反発,米英および世界銀行が提示した援助の条件へのエジプト反発,ナイル川の上流国であるスーダン政府の合意の不在などの理由も存在した.現在では,先進国による援助のシステムが整備され,かつ援助を受け入れる国々の間では援助に付帯する条件についての理解も浸透しており,アスワン・ハイ・ダムの中止が国際的な紛争を招いたような事態が生じる可能性は低くなっている.
著者関連情報
© 水文・水資源学会
前の記事 次の記事
feedback
Top