水文・水資源学会誌
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私的生産制への移行が北ヴェトナム紅河デルタの圃場レベル水管理に与える影響
トゥアン ドアン ドアン佐藤 政良ンガ グエン タン
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1996 年 9 巻 4 号 p. 358-366

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抄録

市場経済への移行によって,ヴェトナムの農村地帯における農業生産の権利は,合作社から農民に返還された.この個人経営制度の導入によって,農民の経営効率化への意欲が高まった.しかし,圃場レベルの灌漑はその共同的性格から,一つの用水に関係する農民の共同的活動なくしては効果的な運用が出来ない.本論文は,紅河デルタにおける形態の異なる水管理地区の調査に基づき,この経済の移行が,圃場レベル水管理にいかなる変化をもたらしているかを分析した.その結果,農家による個別経営導入の一方で,水管理における合作社の役割が消失してしまったことが紅河流域における灌漑排水施設の被害や灌漑用水の下流部受益地に対する用水配分の減少,不安定化を生じさせていることを明らかにする.このような状況に対して,下流部受益地農民は,地域による合作社の機能変化の違いによって,様々な対応をみせる.幸いにも合作社の機能が比較的強く残っている地域では,補助水源の開発を行うことができるが,その受益農民は,上流部の農民に比べてはるかに多額の水管理費と労働を支出せざるを得ない.他のケースでは,水不足に対してなんら実質的な対策をとることが出来ず,水不足の被害を受けても,せいぜい水利公社に対する水利費の支払を延ばしてもらう程度である.用水配分および費用負担の公平を政策的に打ち出すことによって,下流地域農民の用水反復利用への投資が実現し,水利システム全体としての灌漑効率を上昇させることが出来るであろう.また,現在でも残っている伝統的集落組織を村レベルで組織化することが,水管理組織として有効なものになるであろう.

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