抄録
鍼治療に効果を期待して来院する変形性膝関節症を有する患者は多い。その主訴の中心をなす
ものは“痛み”であるが、その痛みに対する主観的データは歩行時痛・階段昇降時痛といった動
作時痛、または正座時痛・就寝時痛などの静止時痛と様々である。鍼治療は中枢性・末梢性など種々
の鎮痛機構を有していることから、変形性膝関節症患者の“痛み”には効果が期待できる。しか
し施術の結果、鎮痛機構の発現により侵害刺激の伝導が一時的に遮断されたのみでは根本の解決
にならないことは明らかである。退行性変化に対し鍼治療が効果を上げられるか否かは不明であ
るが、関節構成体に負荷が加わった結果の痛みであれば、その負荷の軽減をはかることは一時的
な鎮痛ではなく持続可能な効果につながると考える。この場合の“負荷”の責任部位・病態は可
逆的な変化によるものが、より効果的であると考える。鍼通電療法の対象別分類の一つである筋
パルスには、筋内循環の促進と伸張性向上が期待できる。膝関節の動きに係わる周囲筋が、生活
習慣の影響を受け短縮した状態になっていると、膝関節の可動性が制限を受け、可動域の最終段
階で伸張性の低い関節構成体に過度の負荷が加えられることが推測できる。このような場合に短
縮した骨格筋が特定でき、主訴との関わりが明らかであれば施術対象とする。近年、大腿の伸筋
に新しい筋肉が発見されたとの報告があり筋パルスのバリエーションが増える可能性がある。膝
関節周辺の圧痛情報を収集する際にも、骨格筋の圧痛であるか否かも詳細に観察をする。膝関節
内側面の圧痛であれば、屈曲位と伸展位では筋の存在位置が変化をするため比較を行う必要があ
る。そして膝関節は足関節・股関節に挟まれていることから、両関節の可動性の影響も受けるこ
とになる。またHip-Spine-Knee syndrome といった観念があることから、膝痛であっても観察範囲
を拡大することが重要であると考える。鍼通電療法の中の神経パルスの可能性であるが、変形性
膝関節症の痛みについて侵害受容性疼痛以外に神経障害性疼痛による痛みの存在が証明されてい
ることから、今後は神経パルスの膝痛に対する影響の検討も必要となると考える。本稿ではタイ
トルの通り、解剖学的知識などを鍼通電に応用するための基礎的な解説を試みる。