抄録
超高齢社会に伴い、我が国では運動器に障害を呈して疼痛を訴える高齢者が増加している。高
齢者の運動器疼痛は、加齢による退行変性によって疼痛が慢性化しやすく、身体活動量を減少させ、
体重増加や筋力低下、さらには外出頻度の低下による閉じこもり等、精神面への悪影響も懸念さ
れている。このような慢性疼痛に関して、疼痛への不適切な対処方略(願望思考、破滅思考、医
薬行動)が活動制限を引き起こすことが報告されている。疼痛への不適切な対処方略は、活動制
限以外にも疼痛の増悪、機能障害、生活水準(家事や社会的活動)の低下に影響を及ぼす。その
ため、高齢者の運動器慢性疼痛対策では、高齢者自身が疼痛を自己管理する能力を高めることが
重要である。
近年、運動器慢性疼痛対策において、認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy、以下CBT)
が重要な役割を果たすことが示されている。運動器慢性疼痛対策におけるCBT は、患者の疼痛に
対するネガティブな考えや行動に着目して、それらを修正することを目的としている。特に、こ
れまでの運動器慢性疼痛対策には、CBT を日常の疼痛体験に応用する「痛み対処スキルトレーニ
ング(Pain Coping Skill Training、以下PCST)」が多く活用されている。
本稿では、まず初めに高齢者の運動器慢性疼痛に関する先行研究から疼痛の自己管理能力を高
めることの重要性を述べ、我々が膝痛高齢者に対して使用したPCST の技法(認知再構成、リラ
クセーション、活動量調整、目標設定、快活動計画、サポート資源の活用、逆戻り予防)につい
て解説する。次に、運動器慢性疼痛対策への応用が期待されている第三世代の認知行動療法であ
る「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy:以下、
ACT)」を紹介する。ACT は、疼痛などの不快な事情が存在する状態こそが人間にとって正常な状
態であることに気づき、患者が願う人生を支援することを目的としている。先行研究でも、ACT
は高齢者の運動器慢性疼痛対策に適した治療であることが報告されおり、今後も研究成果の蓄積
が期待されている。特に本稿では、先行研究とワークブックを参考に我々が運動器慢性疼痛対策
のために作成したACT のプログラムを紹介する。