抄録
ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)プロジェクトの報告によれば、変形性膝関
節症(膝OA)の2009 年時点における推定患者数(40 歳以上)は2,530 万人、有症状患者数は約
800 万人だった。膝痛は生活の質を著しく下げることが指摘されており医療・介護財政に及ぼす影
響も甚大である。ゆえに、超高齢化が進むわが国において、その予防ないし悪化防止プログラム
の確立は喫緊の課題となっているが、少なくとも、膝OA に対して伝統的に行われてきた関節マッ
サージが介入法として推奨(標準化)されているガイドラインは見当たらない。そこで、本稿では、
内側型膝OA の病態を運動学的視点から論じた上で、その理論に則ったマッサージ療法(運動法を
含む)の術式と有用性を提示した。
まず、荷重耐性と可動性(自由度)という力学的に相反する要求に応えるのに有利な膝関節の
構造上の特徴を概説した上で、大腿骨脛骨角(FTA)と下肢加重線の関係性を中心とした下肢アラ
イメントの機能的重要性に触れた。次に、正常な膝関節でみられる終末強制回旋運動がFTA の正
常化と膝の安定機構に重要な意味を持つこと、関節軟骨の変性・摩耗と滑膜炎が相互に関与しな
がら併進する内側型膝OA の病態的リスク因子に、FTA の増大に伴って増加する膝関節内転モー
メント(膝関節を内転方向に回転させる力の量)が深く関わることに言及した。
次に、上記理論の帰結として、内側型膝OA 治療の基本方針は膝関節内転モーメントの減少を目
的とした終末強制回旋運動の回復(=膝関節屈曲拘縮の改善)と下肢アライメントの正常化に置
かれるべきことを述べ、その具体的介入法としてのマッサージ療法の術式を、①膝関節周囲のオ
イルを使用した組織選択的マッサージ、②内側広筋の筋力強化(筋神経再教育)、③膝関節屈筋群
のリラクゼーション、④膝関節モビライゼーションの構成で提示した。
この術式が、膝OA に対する手技療法のスタンダード化の検討と臨床研究活性化の一助になれば
幸いである。