日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
報告
手母指 IP 関節の屈曲力回復に鍼通電療法が有効であった一症例
栢森 結希徳竹 忠司緒方 昭広
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2020 年 45 巻 2 号 p. 63-68

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抄録
【はじめに】末梢神経障害の罹患率は加齢と共に増加するため、高齢者の受療率が高い鍼の臨床現 場では末梢神経障害の患者を診る機会も多いことが推察される。今回、当科通院中の患者の理学 所見から前骨間神経に問題の可能性がある母指 IP 関節の屈曲力回復に鍼通電療法が有効であった 症例を体験したので報告する。
【症例】68 歳 女性 主婦
【主訴】右手の脱力感
【現病歴】X 年 4 月、孫を抱く際に右前腕の倦怠感を自覚し、1 週間後には右前腕外側の痛みとし て認識するようになった。同時期に書字動作時に右手の脱力感が出現し、整形外科を受診した。 頸部 X 線検査等の結果、腱鞘炎の診断を受け、鎮痛薬の処方で右前腕外側痛は軽快したが同時期 に出現した右手の脱力感はやがて母指 IP 関節屈曲力低下となった。
【理学所見抜粋】tear drop sign が陽性。自動での右母指 IP 関節屈曲 ROM は 12°であった。
【評価】tear drop sign陽性、感覚障害が認められなかったことより前骨間神経絞扼の可能性を考えた。
【治療】1 診目に長母指屈筋に鍼通電を行ったが、筋収縮が認められず、麻痺のため電気刺激に反 応しなかったと考え治療方針を変更した。2 ~ 6 診目は筋による絞扼性神経障害と仮定し、関連す る筋(深指屈筋、浅指屈筋、円回内筋)に鍼通電を行った。7 ~ 8 診目に再び長母指屈筋に鍼通電 を行い、わずかな筋収縮が認められたため、9 ~ 18 診目に正中神経に鍼通電を行った。
【評価】自覚的な曲げづらさを VAS、自動での右母指 IP 関節屈曲の ROM を計測した。
【結果】発症から 8 ヶ月間で 18 診を行い、VAS が 70㎜から 11㎜、ROM が 12°から 61°となった。
【考察】前骨間神経麻痺は絞扼の不明な症例も多く、治療の第一選択としては保存療法が基本であ る。本症例では介入直後から回復徴候が認められ、鍼通電が補完・代替療法の選択肢になり得る ことが期待できると考えた。
【結語】鍼通電療法は前骨間神経麻痺に対する補完・代替療法の 1 つの選択肢になり得ることが示 唆された。
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© 2020 一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
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