2020 年 27 巻 1 号 p. 15-20
近年,高齢化に伴う慢性痛患者の増加と鎮痛薬の慢性使用が問題となっている.非ステロイド性消炎鎮痛薬は,消化管粘膜障害や腎障害のリスクがある一方で,長期使用によりがん生存率を上昇させることが報告されている.また米国ではオピオイドの不適切使用により依存症が蔓延し,死亡者数が急増している.このいわゆるオピオイドクライシスによる社会・経済的損失は甚大であり,本邦においても長期予後への影響が十分検証されないまま,オピオイド製剤の適応が拡大している.術前からのオピオイド慢性使用は術後感染や再手術の危険因子であり長期的にはがんの術後再発との関連が指摘されている.オピオイドの免疫抑制作用は投与量と相関する一方でオピオイドの種類によって異なり,オピオイド受容体を介した作用のみだけでなくパターン認識受容体を介した機序が明らかにされつつある.オピオイドが異物や病原体の認識を修飾している可能性が示唆されている.