抄録
本研究で得られたことの要約は次のとおりである.
(1)回転数Nが2500rpmまでの領域では,送り台(8)の衝撃力Pと上軸(0)のトルクTの計算値は実験値とよく対応した.このことから,押さえ機構は押さえばねkMと送り機構系のばねk8により支持される可動部(9)に,送りの運動が強制付与される1自由度の振動系であるとする本理論は妥当と考えられた.2500rpm以上の領域では衝撃力Pの実験値に飽和傾向がみられたが,構成部材の強度評価などでは本理論に基づくべきである.
(2)トルクTの構成成分のうち半分以上は軸受の摩擦トルクT3である.このトルクは無負荷時の約2倍である.このようにトルク成分T3が大きいのは,衝撃力Pによる上軸の節点力F0の顕著な増大に起因している.
(3)押さえの追従性に関し,
a)押さえばねの初期荷重を基準とする衝撃力Pの大きさは,押さえ機構可動部(9)の重量にほぼ1次で比例する.このため可動部の軽量化は衝撃力Pの動荷重係数を減少させ,追従性を向上させる.
b)ばね定数kMや初期変位y90の増大に対しては,衝撃力Pの動荷重係数は指数関数的に減少していく.そしてばね定数kMが供試ミシン以上の領域では,回転数Nを5000rpmまで考慮しても,動荷重係数は2以下である.このため初期荷重は可縫範囲内でできるだけ大きくする方が有利である.
(4)縫製時の衝撃力Pは,送り機構系のぼね定数k8が縫製物の挿入により減少すると考えることから,本研究の延長上で取り扱うことができる.