抄録
本報告は,物体の変形測定法における特殊な記録方法によるホログラフィ干渉法について述べたものである.ホログラムを作成する際に干渉じまに変調を与え,あとでコンピュータにより復調することを原理にしている.円板を使った実験によって,この方法が物体の微小変位量を高精度に測定できることを確認した.本手法の特長を以下に示す.
(1)物体上の各点における変位量を定量的に,しかもλ/50以上の精度で測定することができる.ただし,この精度は,干渉じまの本数,フィルムのセッティング,スペックルによる雑音などにょって影響される.
(2)変位方向の判別ができる.
(3)変位量を数値として記憶しているため,そのデータから変位量を三次元表示などのわかりやすい表示方法で表すことができる.
(4)変形量が小さく,通常の二重露光法では干渉じまが現れない場合,あるいは現れてもそのピーク位置を特定できない場合があるが,この方法では干渉じまが多く現れ,しまのピーク位置を求めやすい.
(5)特殊な装置を必要とせず,操作が簡単である.
(6)記録方法として二重露光を行っているので,撮影時間が短く,測定中に外乱によって物体が変形する恐れが少ない.
このように本手法は,従来のホログラフィ干渉法で得られる干渉じまの解析がλ/2という感度であるのに対し,それ以上の感度および精度が得られる.このような計測法はサブフリンジ干渉法と呼ばれている.形状測定におけるサブフリンジ干渉計測法は,ヘテロダイン干渉法,走査モアレ法,フリンジ走査法,フーリエ変換法,空間的フリンジ走査法に大別されている.前者3つの方法は時間的に変調を与えた方法であり,後者2つの方法は空間的に周波数変調した方法である.フーリエ変換法は復調のためにキャリア周波数をカットすることを行い,空間的スリンジ走査法はフリンジ走査法と同様な原理でキャリア分を差し引くという操作を行っている.したがって,本手法は空間フリンジ走査法に含まれる.
今回は,干渉じまのピーク位置の変位量だけを測定しており,干渉じまの途中の値は直線補間している.干渉じまのスムージング処理を行い,各ピクセルごとに位相成分まで測定することもできる.
本手法による変形測定法は,変位量を数値として記憶しているため,たとえば試作品の非破壊検査を行い変形量を解析して設計にフィードバックするなど,幅広い応用が期待できる.