日本周産期・新生児医学会雑誌
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産科教育セミナー
東京都における母体救命搬送の現況
兵藤 博信
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2021 年 56 巻 4 号 p. 645-648

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抄録

 母体救命搬送とは

 母体救命医療は,母体の緊急事態に対し救命処置を行うことであり,そこは,救急科と産婦人科が相互に乗り入れる領域である.救命処置は,急速輸血や大量輸血,血液検査や画像検査,呼吸・循環補助,緊急手術・血管内治療などであり,設備,輸血,検査,薬剤や,そして何より多科多職種にわたる人員など多くの医療資源が集中している必要があるので,高次施設でないと行うことは困難である.もともと救命救急医療を行う病院では,直ちに救命処置に移ることができるであろうが,日本では分娩は半数以上が一次施設で行われるので,必然的に救命処置のために高次施設への速やかな搬送が必要となる.これが母体救命搬送であり,地域の病院間連携や医療と行政との連携が重要である.

 母体救命医療の対象疾患は妊産婦に起こった救急疾患や,産科救急疾患など多岐にわたり,予測が困難であったり,診断が困難であったり,急速に重症化したりするものが少なくなく,その搬送は一刻を争う一方で,一般の救命救急医療とは異なるため,産科のない救命救急センターからは敬遠されたり,あるいは,複数の科が連携するだけにいずれかの科が立て込んでいると受け入れが困難となったりする.地方の場合はこのような搬送先の候補となる高次施設は限定的となるので,症例が発生した時に搬送先はおのずと決まってくるが,都市部は人口が多く分娩数も多い一方で,高次施設の数も多く施設間距離がさほど遠くないため,搬送先を調整する場面が生じることとなる.調整に時間がかかることで母体の状態が悪くなり,ときに不幸な転帰が起こりうる.

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