抄録
私共の施設で経験した先天性横隔膜ヘルニアは,過去21年間で110例であるが,このうち10例,9.1% に術後胃食道逆流現象の発生をみた.とくに7例は ECMO を含めた管理法が充足された過去5年間に集中していた.嘔吐などの症状は大部分が術後4週以内に発現し,6例では裂孔ヘルニアを伴った.3例は保存的に管理されたが,7例で逆流防止手術が必要であった.横隔膜ヘルニア術後の胃食道逆流現象の発生にはいくつかの機序が考えられたが,なかでも,『患側肺の術後膨張の遅れと縦隔臓器の患側への偏位』という要素が最も重要であると思われた.すなわち,肺の低形成を伴った横隔膜ヘルニアが救命された後で患側肺の膨張が遅れる症例があるが,このような例では縦隔臓器が患側へ偏位し,その中に食道が含まれると腹部食道が短縮するために胃食道逆流症ないし食道裂孔ヘルニアが発生するという機序である.私共の10例中7例がこのような発生機序に基づいていた.今後に新生児医療の充足が進むにつれてこのような症例が増加してくると考えられ,横隔膜ヘルニアの術中に術後に腹部食道が滑脱しないような手術を付加する必要があると思われた.