抄録
十二指腸壁内血腫(以下本症)は本邦では比較的稀な疾患で,多くが腹部の鈍的外傷に起因している.また本症は体格的特性から小児に発症しやすく,比較的軽度の打撲によっても容易に生ずるとされる.最近我々は外傷性の本症5例を経験した.症例は5歳から13歳の小児で,上腹部の打撲直後またはやや遅れて腹痛,嘔吐で発症した.発熱,白血球増多を認め,超音波検査,上部消化管造形,CT などで本症と診断した.何れの症例も他臓器合併損傷を認めず保存的治療を開始したが,2例では後に開腹術を施行した.また内視鏡検査を2例に行ったが,診断とともに治療の一助ともなりうる点で有用と考えられた.本症では,各種検査法の進歩による正確な診断と高カロリー輸液を中心とする栄養管理の発達により,まず保存的治療が選択され軽快する事が多いが,症例によっては外科的治療が必要となる症例があり,慎重な経過観察が不可欠と考えられた.