2020 年 56 巻 1 号 p. 82-85
症例は日齢17の男児で,体重減少を伴う頻回な嘔吐を認め,肥厚性幽門狭窄症の診断で入院した.入院当日夜間より胃管排液が胆汁性へと変化したが,画像検査では腸回転異常症の所見は認めなかった.アトロピン療法により,一時的に哺乳可能となったものの,哺乳量増加に伴い胆汁性嘔吐が再出現した.上部消化管造影では幽門のstring signと,十二指腸球部で停滞した造影剤の胃への逆流を認め,乳頭部以遠の十二指腸の通過障害を合併した肥厚性幽門狭窄症と診断した.開腹手術において,横行結腸後葉側から胆囊底部右尾側後腹膜へ続く膜様の異常靭帯による十二指腸下行脚の外因性の圧迫所見を認め,これを切離した後にラムステッド手術を加えた.術中消化管造影により十二指腸の通過が良好となったことを確認でき,術後経過は良好であった.本症例は異常靭帯による外因性十二指腸狭窄を合併したために,胆汁性嘔吐という非典型的な症状を呈した肥厚性幽門狭窄症であった.