2025 年 61 巻 5 号 p. 833-839
これまで腹部悪性腫瘍に対する放射線治療において,正常臓器との距離を保つために照射前に腹腔内に吸収性スペーサー留置を行った報告は散見されるが,後腹膜腔に留置した報告はない.今回,左腎保護目的に吸収性スペーサーを留置し,良好な経過を辿った後腹膜肉腫の1小児例を経験したため報告する.症例は5歳男児.左背部の膨隆を主訴に受診し,左腎に近接し脊柱管内進展を伴う巨大な左後腹膜腫瘍を指摘された.生検でBCOR関連肉腫と診断され化学療法で縮小したが,脊柱管内の腫瘍は完全摘出が困難と予想され陽子線治療の適応と判断した.腫瘍切除後に左腎の背側に吸収性スペーサーを留置し,陽子線治療を完遂した.画像上スペーサーは徐々に縮小し,約5か月で消失した.患児は1年10か月の緩解を維持している.吸収性スペーサーは抜去術が不要であり,アプローチが容易ではない後腹膜腔への留置に適していると考えられた.