2022 年 2 巻 Supplement 号 p. S14
スポーツ現場における理学療法において、パフォーマンス向上とスポーツ外傷・障害予防が両立するか、という問題を抱えることが多い。この両者が両立すれば、理学療法士のスポーツ現場における活動がより促進されると考えられる。本講では我々の研究成果を基にバイオメカニクス的知見からパフォーマンス向上とスポーツ外傷・障害予防の両立について検討したい。
外傷予防を目指す疾患の1つとして膝前十字靱帯損傷があげられる。予防のための動作指導として着地や切り返しが取り上げられることが多い。切り返し時の動作として、体幹を前傾させ膝関節を屈曲させることが望ましいと考えられる(Nagano2011.J SportsSci)。しかし、女子選手では、そうした動作指示は体幹の動揺が増し、さらにパフォーマンスを低下させる傾向を示してしまう。一方で、切り返しの際の股関節伸展筋の働きが体幹の動揺を抑え、かつ、パフォーマンス向上につながる可能性がある(永野 2011.体力科学)(永野 2017.トレーニング科学)。つまり、女子選手はパフォーマンスを保障するために常にリスクの高い動作を強いられているが、適切なトレーニングにより外傷予防を目指しつつパフォーマンスの維持・向上が達成できると考えられた。
パフォーマンス向上と外傷・障害予防の両者に関わる知見として、競技中の負荷の定量化があげられる。負荷の定量化により、トレーニングやコンディショニングの指標になると共に、予防にむけて対処すべき動作が明確になるが、競技中の力学的負荷を表す明確な指標は存在していなかった。我々は競技中の加速度変化を計測することにより、力学的負荷の指標として高衝撃動作の頻度やピーク値を明らかにしてきた。バスケットボールを例にとると、男女ともに減速動作が高衝撃動作として最も好発し、男子では身体接触、着地が続いた(Koyama 2020.J Strength Cond Res)が、女子では着地、切り返し、踏切が続いた(Nagano 2021.Sports Med Int Open)。こうして競技中の負荷の高い動作を明らかにすることで、競技に応じたトレーニング内容の実施が可能となり、あわせて、外傷・障害予防の動作指導、予防プログラム実施が可能となる。
以上のように、パフォーマンス向上と外傷・障害予防は相反するものでは無く、両者の阻害要因を明らかにすることで、その関連性がみえてくる。また、競技中動作のように共通認識の基にパフォーマンス向上と外傷・障害予防の両面から選手にアプローチすることが可能となる。