2022 年 2 巻 Supplement 号 p. S4
競泳で最も多い運動器障害はSwimmer’s Shoulderと称される肩関節障害であるが、本邦においては過去には腰部障害の発生が最も多く、その予防対策が求められたため、日本水泳連盟医事委員会では国立スポーツ科学センターの協力のもと腰部障害予防プロジェクトを導入した。プロジェクトでは、競泳日本代表選手や候補選手を対象に、整形外科医が腰椎椎間板の変性程度の評価を行い、理学療法士が体幹深部筋トレーニングの介入や、遠征毎に障害予防に関する教育や啓発活動を行った。その結果、プロジェクト前と比較し、介入後には腰部障害の発生率が減少し、一定の効果が得られていた。このプロジェクトで導入したエクササイズは体幹を安定させ、腰部障害予防に貢献する腹横筋や多裂筋を中心とした体幹深部筋の強化に焦点を当てていた。これらのエクササイズは練習前やレース前に実施されることが多く、障害予防だけでなく、パフォーマンスに及ぼす可能性がある。エクササイズがパフォーマンスに及ぼす影響を検討するために、泳動作の解析を行い、介入前後で腰椎アライメントと泳速度を比較した結果、腰椎前弯角が減少し、泳速度が向上した。以上から障害予防のみならずパフォーマンス向上のためにも予防エクササイズを導入することは重要であると考えられる。
その一方で、競泳日本代表選手を対象に障害調査を実施した結果、近年肩関節障害の発生率が増加傾向にあった。Swimmer’s Shoulderと称される競泳競技における肩関節障害のリスクファクターの検討は、陸上での身体特性の抽出を行った評価が多く、泳動作時の動作解析や筋活動解析の検証は少ない。また競泳は体幹を軸とし、四肢を動かすことで推進力を生み出すため、全身の協調性が重要になるが、リスクファクターの検討においては肩関節周囲のみに焦点が当てられ、体幹部や下肢との協調性は不明であった。この協調性に関しては、筋シナジー解析を用いて明らかにすることができる。筋シナジーは筋電図データから、複数の筋がどの程度の割合で貢献しているかを示す「シナジー」と、このシナジーがどのタイミングで発現するかを示す「時間パターン」を示すことができる。筋シナジー解析は、近年では基礎神経科学や臨床分野はもちろん、スポーツ動作時やスポーツ競技選手特有の筋シナジーに関する研究などに応用され始めている。我々はこの筋シナジー解析を用いてSwimmer’s Shoulderの有無で泳動作時の筋シナジーが変化するかを検討した。その結果、クロールや背泳ぎなどの体幹の回旋を伴う泳法においては、特に体幹部と上肢の協調性の保持が重要であることが明らかになり、肩関節障害のリハビリテーションにおいては、肩関節周囲のみならず、体幹部との協調性エクササイズも重要であることが示唆された。本シンポジウムでは、実験研究から得られた結果と、その結果をもとに立案した予防エクササイズについて紹介する。