2022 年 2 巻 Supplement 号 p. S7
▷はじめに
足関節外側靭帯損傷の急性期治療では、疼痛緩和と組織修復がメインとなる。急性期の治療としては従来RICE処置が提唱されていたが、近年その主流は PEACE & LOVEに変化した。つまり従来のRICE処置からアイシングや安静がなくなり、代わりに適度な負荷と保護が推奨されるようになった。この意味するところは、急性期といえど不動ではなく、動かせるところは動かして、守るべき組織を守るというターゲット戦略と捉えられる。このことを足関節外側靱帯損傷に当てはめて考えてみると、内反を制御しつつ可能な限り早期荷重が推奨されることになる。しかしながら、実際の整形外科外来では、痛くて足をつけない患者様にはギプスシーネと松葉杖を用いて免荷治療を処方しているケースが多い。もちろん、部分荷重ができるようになったら、機能的装具療法も選択肢の一つとなる。果たして、疼痛自制内での早期荷重をすべきか、一定期間の免荷が必要なのか、当日は筆者の過去の発表を踏まえて考察を展開したい。
▷歩行時痛の原因は?
先行研究によると、足関節外側靱帯損傷は後遺症の多い疾患と報告されており、受傷後4週の時点で歩行時痛を有していたケースは7ヶ月後も機能が悪いと報告されている。そのため、受傷後4週までに歩行時痛を改善することが急性期治療の課題と考える。歩行時痛の原因をフェーズ毎に分析してみると、大きく分けて2つの要因が予想される。一つには立脚相初期〜中期における、足部への荷重動作が疼痛を誘発しているケースと、もう一つは立脚相後期における足関節背屈動作が疼痛を誘発しているケースが予想される。前者はheel strikeからMid stanceにかけて、足関節は底背屈中間位から一度軽度底屈し、その後中間位にもどる動作となる。損傷した足関節外側靭帯にとってこの動作は疼痛を生じにくい関節運動であり、この動作での疼痛は外側靭帯以外の組織ダメージが疼痛を誘発している可能性が高い。一方立脚相後期は足関節背屈可動域が必要となり、足関節外側靭帯損傷では多くのケースで背屈動作時痛を呈することを経験するため、背屈動作時の疼痛を緩和することは歩行立脚相後期の疼痛に有効と考えられる。
▷背屈動作時痛の原因は?
足関節外側靭帯損傷の中でも前距腓靭帯は、背屈動作により靭帯にストレスが加わりにくいことから、背屈動作時痛の原因としてこの靭帯が疼痛を誘発しているとは考えにくい。臨床においては、遠位脛腓関節の操作や、距骨の滑り込み誘導、アーチの保護や皮膚の操作など様々な方法が奏功するケースに遭遇する。一概に背屈動作時痛といっても構造的に様々な組織が疼痛を誘発している可能性があることから、当日の発表では疼痛要因を骨、筋、靭帯、滑膜、アライメント、皮膚に分類し、それぞれの組織にターゲットを絞った組織別治療について紹介したい。