2022 年 2 巻 Supplement 号 p. S9
スポーツ外傷急性期におけるアイシングは、鎮痛効果の一方で、損傷組織の回復を遅延させる可能性が示唆されている。アイシングはDR.Mirkinが「RICE(安静、アイシング、圧迫、挙上)」を提唱後、スポーツ現場に広く浸透し実践されている。しかし、DR.Mirkin自身もアイシングによる組織回復の遅延を懸念し、過度に行わないことを推奨している。また、Duboisらは急性期の処置として「PEACE(保護、挙上、抗炎症を控える、圧迫、教育)」を提唱しており、IcingはAvoid anti-inflammatoriesに置き換えられた。炎症は損傷組織の回復に必要な過程であると判明してきており、炎症期に損傷部の清浄化が適切に行われなければ、その後の回復過程は不完全なものとなる。ラットを用いた我々のアイシングの実験では、挫滅損傷による骨格筋損傷直後の施行によって、損傷筋の再生過程が遅延し、成熟化は阻害され、過剰に線維化するとわかった(Takagi et al., 2011)。Takagiらはマクロファージ(以下MΦ)の筋損傷部への遊走・集積がアイシングによって遅延することを見いだし、それが筋再生の遅延と何らかの関係性がある可能性を示した。現在MΦは、損傷筋の再生過程において重要な役割を果たすことが明らかになり、M1型MΦは壊死組織の貪食に、M2型は再生筋線維となる筋衛星細胞の増殖、融合、成熟化に関わるサイトカインを放出することがわかってきている。我々は最近、同様の筋損傷に対するアイシング実験において、MΦ遊走因子であるMCP-1陽性細胞と好中球の損傷部位への集積数が低下することを明らかにした(Miyakawa et al.,2020)。さらに、アイシングによって、損傷部へのM1型のMΦの集積が低下すること(Miyazaki et al., 2022)、TNF-αやIL-10といったMΦの型変換に重要なサイトカインの発現パターンが変化してしまうこと(Kawashima et al.,2021)も明らかにしている。本挫滅損傷モデル動物に対するアイシングが筋再生過程を不完全なものとなることに、損傷部位へのMΦやその遊走因子の集積を遅延させることや、MΦの型変換に重要なサイトカインの発現パターンが変化することが関連していると考えられる。一方、アイシングによる鎮痛効果について、Algaflyらの報告ではアイシングによる神経伝達速度の低下が鎮痛効果に大きく貢献していることが示唆されている。急性期のアイシングは、筋に対しては回復を阻害する場合があるが、疼痛軽減という相反する効果を生じさせている可能性がある。アイシングを現場において適用する際には、その効果に至る作用機序を踏まえて損傷度などの状況や対象者の個別性に合わせて適用する必要があると考えられる。