1986 年 8 巻 4 号 p. 593-598
犬を用いた実験で術後の気管支の虚血が気管支吻合部の治癒を妨げる主要な因子であることが知られている。われわれは気管・気管支形成術後に気管支循環障害を促す原因となる病変が, 成人ヒト気管支動脈にあらかじめ存在するかどうかを観察するために以下の研究を行なった。検索は14例の切除肺を対象に行なった。対象症例の年齢は36歳から83歳であった。気管支のブロックは実体顕微鏡下に分岐の次数を確認しながら採取した。組織学的検索では気管支動脈にfibroelastosis, 内弾性板の断裂, 閉塞の所見が数多くみられた。また, 気管支動脈の末梢では縦走筋の肥厚のために, 内腔が狭窄・閉塞している所見もしばしばみられた。これらの気管支動脈は機械的刺激によって循環障害を来しやすいものと考えられた。肺移植や, 気管・気管支形成術では気管支動脈の切断を余儀なくされることが多いが, これに加えて気管支動脈に塞栓術を行なったり, 気管支動脈を大きく結紮することは, ヒト気管支動脈が狭窄しやすい病変をもっていることを考慮すると可能なかぎり避けるべきであると思われた。