抄録
北部九州の都市近郊域における景観構造の変遷を解析するため, 1947年及び1989年撮影の空中写真から両年の植生図を作成した。あわせて, 当該地域に残存する常緑広葉樹が優占する孤立した社叢林の林分構造を調査した。過去42年間に当該地域では, 低木林や落葉広葉樹二次林などの面積が減少し, 竹林や常緑広葉樹二次林の面積が増加した。林分構造を調査した常緑広葉樹社叢林は, 過去から既に孤立状態にあり, その面積はほとんど変化していなかった。イスノキ, タブノキ, ヤブツバキ, ヒサカキなどの樹種は, 当社叢林においても常緑広葉樹天然林と同様の更新状況にあると判断された。一方, シロダモやウラジロガシは, 天然林とは異なった更新状況を示し, 当社叢林を取り巻く景観構造の変化の影響を受けている可能性が示唆された。特に, シロダモは種子供給源となり得る成木個体数に比して非常に多量の実生が存在していた。これは, 面積が増加した常緑広葉樹二次林から当該林への種子散布量の増加に起因するものと推測された。