抄録
関西4 府県(兵庫県,京都府,滋賀県,福井県)を対象に,ニホンジカ(以下,シカ)の影響による落葉広葉樹林の衰退程度を県域スケールで評価する手法8)の汎用性と有効性について検討した。その結果,落葉広葉樹林の衰退程度の指標 (shrub-layer decline rank; SDR) とシカの生息密度指標の間には地理的相関があること,SDR の悪化に伴い,他の多くの森林の衰退を指標する要素も悪化していくことが府県間で共通して示された。さらに,4 府県のSDR データを地理情報システム上に取り込んだうえで空間内挿処理を施し,leave-one-out 交差検定法で精度検証した結果,4 府県スケールにおいて有効な精度で落葉広葉樹林のSDR 別の地理的分布を推定することができた。推定結果に基づいて,4 府県におけるシカによる落葉広葉樹林の衰退状況を整理した結果,1)兵庫県本州部の中央部から丹後半島を除く丹後山地にかけての地域,2)京都・滋賀・福井県境部を中心とした丹波高地,3)鈴鹿山脈,以上の3 地域はシカの影響により低木層が半減以上した落葉広葉樹林が大面積存在しており,4 府県の中で最もシカによる植生の衰退が深刻な地域であることが示された。