抄録
岐阜県高山市に位置する山中峠のミズバショウ群落では,近年野生哺乳類による湿原の撹乱によりミズバショウの減少が生じている。本研究では,撹乱をもたらす加害獣種を特定し,撹乱発生状況を明らかにすることを目的とした。加害獣種の特定のために,2010 年7 月8 日~12 月31 日にかけて自動撮影装置による調査をおこなった。また,撹乱の種類や発生状況を明らかにするために,7 月7 日に湿原内の撹乱状況をベルトトランセクト法により調査した。自動撮影装置による調査の結果,ニホンジカがミズバショウの地上部を採食し,またニホンジカとイノシシが湿原を掘り返していることが明らかとなった。撹乱状況の調査の結果,優占種4 種のうち採食痕を確認できた植物はミズバショウのみであった。またミズバショウの分布する地点で採食や踏みつけ等の撹乱がよく観察される傾向がみられた。さらに現地では,掘り返された地点においてミズバショウ根茎の採食も確認された。これらの結果から,近年の山中峠湿原におけるミズバショウの減少はニホンジカおよびイノシシによるミズバショウの採食や掘り返しが原因であることが明らかとなった。