2019 年 45 巻 2 号 p. 299-307
中部地方における都市及び都市郊外域60地点の路傍のハードスケープ(壁や道路などの硬質な景観要素)に成立していたシダ類群落計3,310箇所を対象に,各種のハードスケープハビタット(石垣,壁,建造物間隙,路面間隙)の選好性や都市化の影響を調査し,都市において多様なシダ類の生育を目指した保全手法について検討した。この分析・考察は,近畿~中国地方において行われた既往研究との比較を通して行われた。その結果,19種(52.7%)で都市化の影響が確認された。また建造物間隙選好種の多くが森林生種であり,壁は一部の着生シダ類にのみ選好されていた一方で,石垣は幅広い種に選好されていた。既往研究では古い壁が崖や岩上を生育地としている種の生育地として役立つと報告されている。日本においても,古い石垣は少なくともこれらの種の市街地における二次的生育地として重要であり,稀少種の生育地としても役立つ可能性があると考えられた。また,壁や石垣を選好していた種は壁面緑化などの都市緑化素材としての可能性もあると考えられた。都市の生物多様性保全の視点から,シダ類の生育地としての石垣は適切な方法で修復,更新される必要があると考えられた。