日本統計学会誌
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特集:金融リスク管理における統計的方法
再配列アルゴリズムを用いたVaR境界の算出
小池 孝明南 美穂子白石 博
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2016 年 45 巻 2 号 p. 353-375

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抄録

金融機関の行う統合的リスク管理においては,市場リスクや信用リスクなどを統合した合算リスクに対する経済資本の算出が行われる.各種リスクの損失分布は相異なり,かつ複雑な関連性を持っている.このため,リスク合算においてはリスク間の関連性のモデリングが非常に重要であるが,これを十分に捉えきることは一般に容易ではない.また,リスク尺度として広く用いられるValue-at-Risk(VaR)は,経済資本の算出を行う際,リスク間の関連性の不確実性に対して頑健でないことが示唆されている(Embrechts et al. (2015)).このような理由から,リスク間の関連性の不確実性に伴う経済資本の変動を,モデルリスクとして定量的に把握することは非常に有益である.再配列アルゴリズム(Rearrangement Algorithm: RA)は,Embrechts et al. (2013)により提案された,リスク間に生じうるあらゆる関連性に対する,経済資本の上限値および下限値を近似的に算出するアルゴリズムである.しばしばRAは,各種リスク損失分布の右裾における細かな離散化を必要とする.従って,実際の統合的リスク管理モデルへ適用する際には多大な計算負荷を有する.本論文では,RAの適用を考慮し計算負荷を軽減する統合的リスク管理モデルを示した上で,実際にRAを用いた経済資本の境界値の算出例を与える.また,得られた数値結果を基に,いくつかの考察や注意点をまとめる.

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© 2016 日本統計学会
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