本稿では,株式と債券を含む有価証券ポートフォリオ全体の市場リスクを算出する際に,リスクファクター間の接合関数を工夫することにより,通常の状況とストレス状況での分散効果を検証する.本邦のように,過去十数年間,金利と株価の変動に正の相関がみられる場合には,金融機関の実務で用いられている標準的な分散共分散法などの手法を用いたポートフォリオ全体の市場リスク量は,株式・債券それぞれ単体でのリスク量の和と比較して大きな分散効果を得る.しかし,2009年からの欧州債務危機で観察されたように,株価が下落するとともに金利が上昇するような状況では,分散効果は限定的になると考えられる.そこで,本稿では,金融実務に即した時系列モデルの設定の下でストレス状況におけるリスクファクターの相互依存関係を考慮した接合関数を想定する.通常時でもストレス状況を捉えられるように接合関数を工夫するほか,接合関数の推定に利用するデータの時期や地域についても工夫し,ストレス状況下での接合関数がポートフォリオの分散効果に与える影響を計測し,その留意点を整理する.