2023 年 52 巻 2 号 p. 221-267
がんの臨床研究では生存時間解析の役割が大きいが,興味あるイベント以外のイベントは打ち切りとするような標準的生存時間解析が主に使われている.複数のイベントを取り扱う競合リスク解析,さらにこれを拡張したマルチステートモデルを適用することで,臨床データからより多くの有用な情報を引き出すことが可能となり,多彩なクリニカルクエスチョンに取り組むことができる.本稿は,マルチステートモデルによる解析になじみのない臨床家および生物統計家にとっての理論と応用の導入となることを目指す.survivalパッケージのmgus2データセットを用いてRコードの解説を行い,胃癌緩和的放射線治療の多施設共同前向き観察研究のデータを例に取り,応用上のポイントを解説する.理論,Rコード,臨床データ解析のいずれの解説においても,標準的生存時間解析,競合リスク解析,マルチステートモデルが一つの枠組みで捉えられる点を意識している.