日本統計学会誌
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52 巻, 2 号
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特集:生存時間解析・イベントヒストリー分析
  • 武冨 奈菜美, 山本 和嬉
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 69-112
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    生存時間解析・信頼性解析は,患者の生存時間や機器の故障時間など,ある個体に対して特定の事象が生起するまでの時間に関するデータを扱う,統計学の一分野である.本稿は,生存時間解析・信頼性解析に用いられる統計モデルの歴史的背景や統計的性質について,初学者向けに書かれた総説である.生存時間や生存関数,ハザード関数などの基本的な生存時間解析の道具や概念を定義し,それらの統計的性質・解釈を解説する.また,指数分布・ワイブル分布・対数正規分布などの,一般的なパラメトリックモデルや,Cox比例ハザードモデル・加速故障時間モデルなどの回帰モデルについて解説する.競合リスクモデルについても簡単に触れる.本稿で使用したデータ,式の導出,解析に使用したRコードを付録に与える.

  • 本田 敏雄
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 113-129
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    データ収集技術の飛躍的進歩により,説明変数の数pの非常に多い高次元データが得られるようになり,その統計解析が重要な話題となって久しい.そして代表的な解析手法であるLassoなどは,学部生向けのテキストにも紹介されるようになっている.またさらに,説明変数の数pが標本数nの指数オーダーと考えて差し支えないような超高次元データも,統計解析の対象になっている.この解説論文では,生存時間解析でもっともよく使われているといってもよいCox回帰モデルを中心に,(超)高次元の説明変数がある場合の生存時間に関する最近の研究について,著者自身の研究の観点から紹介する.

  • 古川 恭治
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 131-152
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    イベント発生ハザードを区分定数関数とすることで,ポアソン回帰によって生存時間分析を行うことができる.このアプローチは,Cox比例ハザード回帰などと比べて一般的ではないものの,ベースラインハザードの柔軟なパラメトリックモデリング,複数の時間依存共変量やランダム効果を含むモデルへの拡張を一般化線形/非線形モデルの枠組みで行うことができるという利点があり,大規模コホートの長期追跡データ解析ではポアソン回帰に頼らざるを得ない場合も少なくない.本稿はポアソン回帰による生存時間解析手法を定式化し,その特徴と性質について調べることを目的とする.特に,主要時間スケール因子の層別化の影響や時間依存共変量やランダム効果を含む場合の推定性能に焦点を当て,シミュレーションによってCox回帰など他手法との比較を行う.さらに,実データへの適用例を紹介し,ポアソン生存時間回帰が最も効果的とされる状況や今後の拡張について議論する.

  • 杉本 知之, 田中 健太
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 153-176
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    生存時間解析において,一つのイベント時間を扱う様々な研究と応用例がある.一方,複数のイベント時間を同時に扱うニーズは潜在的には高いものの,その適用はまだそれほど多いとはいえない.生存時間解析における複数のイベント時間を同時に扱う多次元化のためのアプローチとして有用なコピュラをとり上げる.とくに,主として生物統計分野での適用に焦点をあてて,背景にある主要な問題,コピュラを用いるための基礎知識やこれまでの発展の経緯を解説し,競合リスクや複合エンドポイントの取り扱いといった生存時間解析の多次元化に存在する諸問題を紹介する.そして,セミ競合リスクのもとでの従属打切りへの対応といったこの領域における問題解決のアプローチとしてのコピュラの有用性を議論し,その中で致命的でないイベント時間の生存関数の推定に関する新たな計算手法の提案も行う.二つのイベント時間を同時に扱う応用例として,Cox回帰分析の2変量版の適用や研究デザインへの応用を与える.

  • 太田 修平
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 177-201
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    大規模かつ複雑なシステムの信頼性解析には,システムを構成するコンポーネント(サブシステムや部品など)の寿命間の従属性の情報が必要となる.本稿では寿命間の統計的な従属性の評価手法として,多変量確率分布であるFarlie-Gumbel-Morgenstern(FGM)コピュラを用いた信頼性データ解析を解説する.まず多変量FGMコピュラの性質を解説し,同時推定法とInference Functions for Margins法の2種類の最尤法をベースとしたパラメータ推定手法を詳説する.とくに,推定量の標準誤差と信頼区間を導出し,シミュレーションを通してその性質を調査する.そして,実データの解析を通して,多変量信頼性データを用いた解析へのFGMコピュラの応用を紹介する.

  • 道前 洋史
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 203-220
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    生存時間解析において,打ち切り・切断・競合リスクといった不完全データの取り扱いは,古典的ではあるが重要なトピックである.近年,競合リスクを伴う左側切断・右側打ち切りデータの解析で,Kundu et al. (2017)は新たな統計学的手法を提案した.彼らの提案手法は,競合するイベント(リスク)が互いに独立であるという仮定に立脚しているが,この独立性の仮定は多くの実証研究で成り立たない.そこで,本稿では独立性の仮定が成り立たない(競合するイベントが相関する)場合でも,Kundu et al. (2017)の提案手法の性能が担保されるのかどうかをシミュレーション実験で検証する.さらに,競合するイベントが相関する場合についての解析手法も検討する.

  • 齋藤 哲雄, 室谷 健太
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 221-267
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    がんの臨床研究では生存時間解析の役割が大きいが,興味あるイベント以外のイベントは打ち切りとするような標準的生存時間解析が主に使われている.複数のイベントを取り扱う競合リスク解析,さらにこれを拡張したマルチステートモデルを適用することで,臨床データからより多くの有用な情報を引き出すことが可能となり,多彩なクリニカルクエスチョンに取り組むことができる.本稿は,マルチステートモデルによる解析になじみのない臨床家および生物統計家にとっての理論と応用の導入となることを目指す.survivalパッケージのmgus2データセットを用いてRコードの解説を行い,胃癌緩和的放射線治療の多施設共同前向き観察研究のデータを例に取り,応用上のポイントを解説する.理論,Rコード,臨床データ解析のいずれの解説においても,標準的生存時間解析,競合リスク解析,マルチステートモデルが一つの枠組みで捉えられる点を意識している.

  • 猪狩 良介, 星野 崇宏
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 269-293
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    マーケティングでは,生存時間解析を用いて消費者の購買タイミングを分析する購買間隔モデルが研究されている.本研究では,観測されない消費者異質性の動的変化を考慮した競合リスクモデルを提案し,複数チャネルにおける購買間隔モデルに応用する.具体的には,競合リスクモデルを用いて,ECサイトとリアル店舗における購買間隔モデルを構築する.さらに,購買間隔の競合リスクモデルにおいて,観測されない異質性の動的変化を状態空間モデルにより捉え,消費者異質性を階層ベイズモデルにより捉えるモデルを提案する.また,購買間隔に加えて購買金額も扱う同時モデルを構築する.提案モデルをECサイトとリアル店舗における購買行動をシングルソースで記録したデータに応用した結果,単一のチャネルのみを扱うモデルや動的変化を考慮しないモデルと比較して提案モデルは優れたパフォーマンスを示すことが明らかになった.加えて,チャネルによるマーケティング変数の効果の違いなども明らかになり,提案モデルの有用性が示された.

  • 江村 剛志
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 295-317
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    Mann-Whitney検定は2つの母集団の差異をノンパラメトリック検定する統計手法である.2つの生存時間を比較する場合,一方が他方より確率的に大きい度合「Mann-Whitney効果」を推定する.Mann-Whitney効果のEfron推定量は,打ち切り時間と生存時間が互いに独立であるという仮定(独立打ち切りの仮定)下で妥当である.一方,この仮定が成立しない「従属打ち切り」に起因するバイアス問題が生存時間解析の文脈において活発に議論されている.本稿では,Mann-Whitney効果のEfron推定量の漸近バイアスをコピュラに基づいて解析する方法を紹介する.また,従属打ち切りの構造をコピュラで調節することにより漸近バイアスの無い推定量が構成できることを示し,それを用いた2標本検定法を紹介する.推定量の一致性・漸近正規性やモデル誤特定下での性質も議論する.最後に実データを用いて提案手法を解説する.データ解析のRコードは付録に与える.

  • 福田 武蔵, 坂巻 顕太郎, 大庭 幸治
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 319-354
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    生存時間を評価項目とするがん領域や循環器領域の医学系研究で,治療効果の指標としてNet BenefitやWin Ratioが利用されている.これらは一般化ペアワイズ比較に基づく指標として整理できる.一般化ペアワイズ比較では,新治療と標準治療を比較するランダム化比較試験の場合,各群から1人ずつをランダムに選んでできるペアに対する勝ち負けの確率を評価する.このとき,評価項目の大小関係に基づく様々な勝ち負けのルールを考えることができる.Net Benefitは勝ち負けの確率の差,Win Ratioは比として定義される指標である.本稿では,勝ち負けの確率,Net BenefitとWin Ratioの推定方法を一般化ペアワイズ比較の観点から整理し,U統計量理論から導かれる漸近分散を説明する.また,打ち切りを含む生存時間における推定の問題と対処方法を説明する.最後に,Rパッケージによる実装方法を例示する.

  • 水間 浩太郎, 杉本 知之
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 355-371
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    ログランク検定はイベント時間データの2標本問題における代表的なノンパラメトリック検定手法であり,現在,様々な分野で用いられている.ただし,ログランク検定からの有意確率は,通常,漸近カイニ乗近似を用いて求められるため,小標本あるいは群間のサンプルサイズに偏りが大きい状況ではその近似精度が良くないことがこれまで指摘されてきた.本研究では,計算代数統計を用いて,このような状況でも適切に機能する新たな計算手法を導出する.提案の計算アルゴリズムの主要な特徴は,分割表のマルコフ基底を用いて,検定に対するp値をマルコフ連鎖モンテカルロ法によって推定する点である.また,提案手法の有用性を評価するため,シミュレーション比較も行ない,漸近近似が悪くなるような状況においても,提案手法では有意水準が適切に保たれていることが与えられる.

  • 江村 剛志
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 52 巻 2 号 p. 373-390
    発行日: 2023/03/01
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    決定木は,標本の二分割を繰り返しながら構成する統計モデルである.生存時間データに基づく決定木(生存木)は,患者の属するリスク群を特定し,患者の予後を予測する実践的なツールとして知られている.生存時間データから有意な分割を決定する際には,ログランク検定などの生存時間解析法を用いるのが一般的である.しかしながら,ログランク検定は小標本下で不安定である.よって,ログランク検定に基づく分割の有意性の解釈が困難になる場合がある.また,遺伝子発現量などの高次元の共変量をRパッケージrpartで解析する場合,多重検定の過剰適用により分割の有意性の解釈は困難である.本稿では,高次元共変量下で起こりうるこれらの問題を軽減した「安定化スコア検定」に基づく生存木を構築する手法を紹介する.また本手法は,容易なP値のチューニングで構成できるのも特徴である.本手法を肺癌患者の生存時間データに適用し,生存木がどのように構築されるかを示す.提案手法はRパッケージuni.survival.treeで実行可能である.パッケージの使用例は付録のRコードに与える.

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