スポーツ社会学研究
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原著論文
武道とダンスを学校教育で教えることにより広がる可能性とは何か
樋口 聡
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2013 年 21 巻 1 号 p. 53-67

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抄録

 武道とダンスが中学校の保健体育で必修になった。その必修化が、学校教育に何をもたらすのか、武道とダンスを学校教育で教えることでどのような教育的可能性を考えることができるのか。その展望を示すことが、本稿の目的である。
 まず、武道とダンスの必修化をめぐって、武道やダンスの研究者や学校現場の教員によってすでになされている議論を、『体育科教育』(大修館書店)の特集号で概観した。体験の楽しさの探求、生徒の知的好奇心の刺激、歴史学習の大切さ、道徳教育・人間教育の方向性が、関係者によって論じられ、共有されていることが明らかになった。次に、文化の伝承の問題を、武道とダンスのそれぞれについて検討した。特に武道について、我が国固有の伝統と文化の強調が、必修化の背景にあると考えられるからである。「型」の文化の学びと、西洋近代のメカニックな合理性からずれた身体運動技法との出会いが、武道・ダンスの文化の伝承の契機として指摘された。そして、武道やダンスを学校教育で教えることの根源的意義として、「身体感性の学び」の生成についての議論が提示された。武道もダンスも、感覚・感受性、表現、技能、主体性といった身体感性の学びの場として捉えることが、学校教育で武道やダンスを必修化することによってもたらされる可能性であることが明らかになった。武道とダンスの必修化の結果、学びの広がりに応じて、教科の枠組みの融解がより一層進む可能性も示唆された。

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© 2013 日本スポーツ社会学会
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