抄録
応援行動に関する調査と研究は近年、さまざまな場面について多角的に行われるようになった。そのなかで指摘されているのは、応援する人びとに対する管理の強化や、応援団体への女性の進出、さらに応援が消費市場にとりこまれたことなどである。これらの諸点について、プロ野球の観客席で観察された例などをふまえつつ、方向性や今後の課題について指摘する。
じゅうらいのローカルな応援文化は、国際化や商業化、ジェンダーレス化などの進行とともに大きく変貌している。その結果、古い応援のスタイルはすたれ、「統制された熱狂」とも呼びうる状況が生みだされた。ただし、現場ではそのような方向性にあらがう動きも確認できた。応援の場への女性の進出も着実にすすんだが、いっぽうで、それは競技スポーツの多くがそうであるように、男性/女性という区別を前提にしたかたちをとどめたままである。また、拡大する応援ビジネスに観客がとりこまれ、多くのグッズが販売されるようになった。観客は、それらの多くの商品のなかから、自分の応援のありかたを託して表現できるモノを選択し、消費行動をつうじて自己表現を行なう傾向が強まっているとみられる。
なお本稿は、筆者の観察メモにもとづいて記述しているとはいえ、計画的に調査を設計し、収集されたデータを分析したものではない。フィールドノートに記載された断片的な事実から、現状を考え、将来的な研究課題を析出する作業をめざすものである。