スポーツ社会学研究
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原著論文
体育教師の固定的なジェンダー観と運動部活動文化の関連について
—運動部活動経験が体育教師志望に与える影響の分析から—
三上 純
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2023 年 31 巻 2 号 p. 59-75

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抄録

 本稿の目的は、固定的なジェンダー観の形成に寄与する運動部活動文化に着目し、それが体育教師志望といかに結びついているのかを、統計分析によって明らかにすることである。先行研究の概観から以下の3つの仮説を設定し、その検証を分析課題とする。①体育教師志望に与える様々な運動部活動経験の影響は、運動部顧問志望に媒介されて生じる。②運動部活動を通じた男性体育教師との結びつきが、体育教師志望に影響する。③運動部活動における性に関わる指導者の言動や仲間同士のコミュニケーションが、体育教師志望に影響する。
 本稿では、日本の中学校・高校に通っていた大学生・大学院生を対象に、2021年2~3月(以下、1期調査とする)および同年4~7月(以下、2期調査とする)に実施したオンラインのアンケート調査によって得られたデータを使用する。1期調査では、筆者の知人や大学に勤務する教員を通じてEメールまたはLINEで、約1600人に回答リンクを配布し397人から回答を得た。2期調査では、大学に勤務する教員が受け持つ授業を通じて約3000人に回答リンクを配布し、755人から回答を得た。本稿では2つのデータを統合して使用する。
 体育教師志望を従属変数とするロジスティック回帰分析と、運動部顧問志望を媒介変数とするKHB法による媒介分析の結果、仮説①および仮説②は支持されたものの、仮説③は支持されなかった。しかし、体育教師志望を強く規定する運動部顧問志望を従属変数として多項ロジスティック回帰分析を行った結果、運動部活動における性に関わる指導者の言動や仲間同士のコミュニケーションは運動部顧問志望の規定要因となることが示された。このことから、固定的なジェンダー観の形成に寄与する運動部活動での指導者や仲間との関係性が、運動部顧問志望を経由して体育教師のジェンダー観に影響すると考えられた。

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