本稿は, 韓国・済州島におけるスポーツ開発の事例を通して, 地域の内発性 (=伝統の再創造) を居住する生活者間の相互・緊張関係に基づく日常生活から探り出す。それを通じてスポーツ開発と地域の内発性とのかかわりに関する論理展開を深化する手掛かりとしたい。
1960年以降, 現在に至るまで約35年間, レジャー・観光開発を軸にした「本土化」政策によって済州島の景観は一変した。地域に居住する生活者の意思が及ばない構造的要因によって済州島人は急変な地域変動を経験することとなった。近年, 中央主導の「本土化」政策への見直し気運がおこり, 済州島の地域振興策として登場したのがゴルフ場開発である。中央政府によって一旦決定した事業は覆ることなく地域に具体化されるという韓国の政策決定過程に対して, 地域の内発性は国家プロジックトとしてのゴルフ場開発へ異議を申し立て, その開発を阻止しようとした。
本稿では, 国家の政策的意図に基づくゴルフ場開発と地域に居住する生活者の暮らしとの隔りを明らかにする。そして, その開発に対立する地域の内発性への理解を深めるため, 国家権力に時に敢然と立ち向かい, 時に変容しつつ彼らの「生活の論理」の中に埋め込まれている生活者の内発性のありようを示す。地域の内発性を生活者の日常生活から探る作業は,「内発的発展論」に基づく事例研究の貧困という課題に対する問題解明とともに, 一つの実践例を提示することである。