抄録
要約:フィブリノゲンはフィブリン血栓形成における最終基質として,トロンビンの標的となる重要な糖蛋白である.そのため,大量出血,大量輸血に伴う希釈性凝固障害に対しては,近年,フィブリノゲン補充の重要性が強調されている.後天性出血へのフィブリノゲン濃縮製剤やクリオプレシピテートの応用がひろがりつつある本邦での動向をうけ,その止血効果を再検討する時期にある.諸外国における先行研究の多くがフィブリノゲン濃縮製剤の有効性を支持しているが,十分なエビデンスレベルの構築には至っておらず,有効な患者群の選定やトリガー値の設定は現状において明確でない.トロンビン産生を誘導するタイプの凝固因子濃縮製剤に比較して,フィブリノゲン濃縮製剤は血栓性リスクが低く,比較的に安全性の高い血液製剤である.しかしながら,高度の全般的な凝固因子欠乏状態下では単一の凝固因子補充では不十分であることから,病態に応じて,血漿製剤や複数の凝固因子製剤を適宜に組み合わせる止血対応が求められる.