日本血栓止血学会誌
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特集 外傷性凝固障害
外傷と血小板輸血
石倉 宏恭
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2016 年 27 巻 4 号 p. 420-430

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抄録

要約:外傷死亡の30–40%は受傷後早期の大量出血に伴う失血死である.この中で,出血に対する初期対応の不備が原因による死亡例が少なからず存在する.このような『防ぎ得た外傷死(preventable trauma death; PTD)』を未然に防ぐ手立てとしては,まず何よりも迅速かつ的確な止血操作が実施されなければならないが,これに加えて,近年,外傷症例の救命率向上を目的とした,damage control resuscitation(DCR)という新しい初期蘇生の概念が提唱されている.DCR の重要な要素の一つに「外傷性凝固・線溶障害の予防と是正」が挙げられており,PTD を減らすためには外傷初期からの適正な輸液と輸血を実施しなければならない.DCR を加味した外傷患者に対する初期輸液は加温晶質液(細胞外液)を1,000–2,000 mL 程度に止め,その後速やかに赤血球濃厚液(packed red blood cell; PRBC)を投与する.しかし,PRBC 10 単位を急速輸血した場合,凝固因子は40%以下にまで低下し,血小板数も50–100×109/L 以下に低下してしまう.このため,PRBC と同時に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)や濃厚血小板製剤(platelet concentrates; PC)を投与して,凝固障害の是正を実施しなければならない.PC 投与に限ると,その開始時期は血小板数100,000/μL で考慮し,50,000/μL を切らないように投与する.PRBC との投与比率(PRBC:PC)は少なくとも2:1 とし,可能であれば1:1 を目標とする.これを達成できればPTD を未然に防ぐことも可能となる.

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© 2016 日本血栓止血学会
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