日本輸血細胞治療学会誌
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症例
婦人科手術の全身麻酔中に発生した輸血関連急性肺傷害(TRALI)の1例―特に血液ガスの変化と血液製剤の免疫血清学的分析から
九里 孝雄鈴木 久仁子山内 郁子西山 千春若松 和代菅野 映子矢内 裕宗
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2008 年 54 巻 3 号 p. 386-392

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抄録
術中輸血により急性呼吸障害が生じ,抗体検査で輸血関連急性肺傷害(Transfusion-related acute lung injury, TRALI)と診断された症例を経験した.
症例は子宮癌手術の70歳女性(5妊3産).輸血歴無く不規則抗体陰性.術中出血に対して赤血球輸血(Ir-RC-MAP)18単位,新鮮凍結血漿(FFP)14単位を約2時間30分の間に投与した.最終輸血終了10分後頃から急激な酸素飽和度(SpO2)と血圧低下(65/35mmHg)を認め,100%酸素での人工呼吸とした.SpO2は70%に低下,非酸化ヘモグロビン(FHHb)は0.8%から8.8%に増加した.薬物投与(エピネフリン等)で循環動態を維持,この際副腎皮質ホルモンは用いなかった.20分後頃から両肺に雑音を聴取,続いて多量の泡沫状の痰を認めた.中心静脈圧の上昇はなく,血圧も約1時間後には回復したが手術は中止された.術後回復室での肺X線写真で心陰影の拡大はなく,肺水腫の像であった.心エコー検査で心血管系の異常はなかった.15時間後の白血球は1,600/mm3に低下していた.
輸血17製剤の検索で,抗顆粒球抗体は全製剤陰性,抗HLA抗体は3製剤がHLA(Class I & II)抗体陽性となった.患者血清中の抗体は抗白血球,抗血清蛋白(抗IgA,抗C4,抗C9,抗ハプトグロビン,抗セルロプラスミン,抗α2マクログロブリン)全て陰性,また先天性の欠損蛋白もなかった.交叉反応試験では,3製剤中の2製剤(RC,FFP)が陽性であり原因製剤と推定された.陽性反応の供血者は全員女性であったが妊娠歴は不明であった.
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© 2008 日本輸血・細胞治療学会
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