2010 年 15 巻 1 号 p. 5-8
安楽死とは,苦痛がない,または苦痛が最小限の死である。わが国では動物愛護管理法で動物の人道的な殺処分に関する規定がなされているが,対象は家庭動物,展示動物,産業動物(畜産動物),実験動物などの人の飼養に関わる動物であり,野生動物の殺処分について定める法律は整備されていない。しかし,現実的には,被害軽減のための個体数調整,特定外来生物の防除,野生動物救護,調査・研究などにおいて,野生動物の殺処分が必要な場面は多い。野生動物の命を奪うにとの精神的ストレスや処分に対する社会的圧力に耐え,安楽殺処分に対する説明責任を果たすためには,動物への苦痛が最小限の方法を実施することが不可欠である。今後,野生動物の適切な安楽殺処分のためのガイドラインの整備や優れた人材の育成が望まれる。