日本野生動物医学会誌
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特集論文
希少野生動物(トキ)飼育繁殖施設の獣医師
和食 雄一
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2012 年 17 巻 1 号 p. 5-6

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抄録

 トキ(Nipponia nippon)は明治時代以降,乱獲や生息環境の悪化により生息数が激減し,1981年に日本の野生下から姿を消した。2003年には野生下から保護した最後の日本産の個体も死亡した。しかし,1999年に中国から1ペアのトキが贈呈され,この2羽を創始個体として佐渡トキ保護センターで繁殖,その後も中国から個体を導入しながら約200羽まで増加した。現在,多摩動物公園,いしかわ動物園,出雲市トキ分散飼育センターでも飼育しており,2008年以降,佐渡で野生下への再導入も開始している。希少野生動物の保護増殖施設で働く著者の仕事は飼育業務が大きなウエイトを占める。これには毎日の個体観察や給餌をはじめ,繁殖や野生復帰の訓練,放鳥も含まれる。獣医師としては診療や感染症の侵入防止のための衛生業務,解剖といった業務がある。トキは希少種であり,マスコミも注目している。その意味でプレッシャーが大きい仕事であるが,それ以上に1羽の命に対する責任を大きく感じる。誕生の瞬間から診療,死亡,そして解剖に至るまでその1羽の「生涯」全てをみることになるからである。著者は佐渡トキ保護センターから今年4月に新たに開設された長岡市トキ分散飼育センターに異動した。この施設では初めてトキを飼育する準備としてトキの近縁種を試験的に飼育し,ケージ環境や餌について検証してきた。10月11日にはトキが移送される予定である。

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