情報の科学と技術
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パーソナルAIによるデジタルデバイドの解消と注意経済の終焉
橋田 浩一
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論文ID: 2024-012

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発表概要

AIとのマルチモーダル(MM)対話が人間と情報機器とのインタフェースになることにより,デジタルデバイドが10年で解消する。各個人に専属するパーソナルAI(PAI)がMM対話によってあらゆる個人向けサービスを仲介することにより,そのサービスに関連するパーソナルデータ(PD)が本人に集約される。PAIがそのPDをフル活用することにより大きな付加価値が生まれる可能性が高いが,リスクも非常に大きいので,PAIの適正なガバナンスが必須である。PAI提供者は自らの利益のためにPAIのガバナンスに協力し,そのガバナンスの下で各サービスは人間の認知バイアス等に付け込んで行動を操作することができないので,注意経済と監視資本主義が終焉する。

1. デジタルデバイドの解消

AIとのマルチモーダル(MM)対話が人間と情報機器とのインタフェースになる2)ことにより,デジタルデバイドが解消する。これは一般市民にとっても政府や事業者にとってもメリットが大きいので,確実に実現する。人間はアプリやWebサイトを操作せず,音声やテキストや表情や身ぶり手ぶりでAIと対話することによってさまざまなサービスを簡単に受けられるようになる。「適当な銀行と生命保険の口座をマイナポータルに登録して」とか「あまり利用してないサブスクから退会しといて」とか「3時に市民病院に行きたいからタクシーを手配して。タクシーよりライドシェアが良いけど」とか言えばAIがそのように取り計らってくれる。子供や高齢者も情報機器を使いこなせるようになる。

2. サービス仲介

MM対話AIにつながった多様なサービスに関連するデータは利用者のパーソナルデータストア(PDS)に集約(名寄せ)して利用者本人のために活用できる。こうしてMM対話AIは(プライバシ保護等のため)特定の利用者に専属し本人のパーソナルデータ(PD)を用いて本人を支援するパーソナルAI(PAI)1)となり,PDの分散管理をもたらす(図1)。

図1: PAIがサービスの利用を簡単にし分散管理をもたらす

まだ完成度は低いがPAIがすでにいくつか商品化されている。今後さらに数多く商品化され,PAI提供事業者の間の熾烈な競争になることは目に見えている。その競争に生き残るには自社のPAIの付加価値を最大化する必要があり,そのためにはPAIが利用者のパーソナルデータ(PD)をフル活用する必要がある。しかし,PAIがPDを実際にフル活用するには,PAIに対する利用者の厚い信頼が不可欠である。その信頼の内容は,PAIがプライバシ等の人権を守ってくれることと,十分良いサービスを提供してくれることである。

3. ガバナンス

その信頼を醸成し維持するためのサービスのガバナンスとメタガバナンスの仕組みを図2に示す。メディエータはPDの2次利用を仲介する仕組みであり,多くのPAI利用者から本人同意等に基づいてPDを収集して分析する。PAI提供者はメディエータが納入したLLMにRLHF等を施したものをPAIに供給する。PAI提供者が供給する知識に基づくPAIサービスを,サービス監査者がメディエータを用いてそのサービスに関連するPDを収集し分析した結果に基づいて評価する。また,サービス監査者同士がサービスの評価結果を互いにチェックするという分権的な仕組みによってサービス監査者のガバナンス(サービスのメタガバナンス)がなされる。メディエータを用いたPDの2次利用は,サービスの評価以外にも,商品やサービスの開発,人間や社会の研究(MS9の研究を含む),政策の立案と検証などに及ぶ。

図2: 分散データ基盤とサービスのガバナンス

4. おわりに

これまでは個別サービスが利用者の注意の獲得を競っていたが,あらゆるサービスがPAI経由で利用者に提供され,利用者は常時PAIを使うので,PAI 提供者に必要なのは利用者の注意ではなく信頼である。また,PAIが仲介するサービスは,人間の認知バイアス等に付け込んで行動を操作することができない。こうして注意経済や監視資本主義3)が終焉し,サービスの提供者と利用者が信頼に基づいて価値を共創する時代になる。

参照文献
 
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