論文ID: 2024-015
来る資源循環型社会に向けて,プラスチックを扱う化学メーカーが新たに獲得できるビジネスの機会を検討するために,公開資料調査及び特許調査を実施した。
その結果から多くのプラスチック素材が使われている繊維,すなわち衣料品のリサイクル,特に複合素材のリサイクルシステム確立が大きな課題であると特定した。また,経済/技術の両面において有望なリサイクル方法は発展途上であることも分かった。
これら課題に対し,リサイクルではなくアップサイクルという観点から化学メーカーが保有する配合技術,商流,販路を活用することで,資源循環型社会に向けたビジネス展開の可能性があると考えた。
世界は既にカーボンニュートラル時代に突入しており,実際に日本政府も2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出ゼロを目標に掲げている。この実現には,大量生産大量消費を脱却して資源循環型社会を構築することが必要となる。特にプラスチックは膨大な量が生産,消費されており,循環の必要性は高い。本報では,プラスチックにおいて資源循環型社会に向けた化学メーカーのビジネスの参入可能性を探った。
現在の社会生活において多くのプラスチックが包装・容器等/コンテンナ等,電気・電子機器/電線・ケーブル/機械等,輸送,建材,家庭用品/衣料履物/家具/おもちゃ等,農林・水産と生活等の幅広い分野で利用され,我々の生活に欠かせないものとなっている。
廃棄プラスチックの有効利用率はサーマルリサイクルも含めると,1)約87%となっている。一方で,衣料品は約65%が廃棄されており,リサイクルは15%となっている2)。リサイクルされる衣料品も,衣料品to衣料品ではなく,大半はウェスやフェルトといった需要の限られた用途へのカスケード利用で,品質の悪い原材料でも許容できる付加価値の低い製品となっており,新規参入企業も少なく,リサイクルの拡大が見込めない状況となっている。衣料品の循環利用に向けた課題は非常に大きい。
2.2 衣料品リサイクルにおける課題と解決策資源循環型社会に対応した衣料品のリサイクルにおける課題は①:回収のルール(リサイクル法)がない3)/衣料品のリサイクル,サステナブル対応を行っている消費者も少ない4),②:前処理の仕分けが全て人による作業5)で作業量に限界がある,③:大半の衣料素材は混紡などの複合素材であり,単一素材への分別が出来ないとリサイクル出来ない5)の3つが考えられる。課題①,②は現状でも解決の可能性があるが,課題③の解決策は現状示されていない。将来目指すべき姿に対する解決策が示されるのは当面先になることが予測される。
課題③に対し,複合素材のままで別製品の原料,材料として利用するアップサイクルビジネスというアプローチも行われており,この観点で資源循環型社会に向けたビジネス参入の可能性を探った。
2.3 化学メーカーのビジネス参入の可能性アップサイクルビジネスを手掛ける会社について特許調査を実施したところ,樹脂関連の再利用は30件,繊維関連は3件と非常に少なく,ビジネス参入の可能性あることが分かった。実際の商材を確認したところ,日用品に集中しており産業用途は見当たらなかった。複合素材はその成分がバラバラだが,化学メーカーが持つ樹脂添加剤配合技術やコンパウンド・成形技術を適用し,産業用途向けの品質の安定した資材の開発をすることで,資源循環型社会に向けたビジネス創出を検討した。
資源循環型社会を制約ではなく機会と捉えて,自社の保有資産を再定義することで新たなビジネスチャンスを掴む,本報がその一例となることを願う。
本研究は,一般社団法人情報科学技術協会(INFOSTA)主催の3i研究会の研究の一環として行った。本研究では,(株)ジー・サーチ様からJDreamⅢおよび JDreamⅢ Innovation Assist,中央光学出版(株)様からCKS Web,インパテック(株)様からパテントマップEXZをご提供頂いた。また,3i研究会サポーターの佐藤貢司氏よりご指導を頂いた。ここに改めて深謝の意を表する。