論文ID: 2024-025
生成系AIの発展により,特許調査へのAI活用が注目されている。AIは大量の特許データから関連性の高い特許を抽出し,新規性・進歩性の判断を支援できる。また,明細書作成の効率化にも寄与可能だが,AIの出力には精度や信頼性の検証が不可欠である。AIの限界を認識し,専門家の知見と組み合わせることが重要である。今後はAIの性能向上と適用範囲拡大が期待される一方,専門家とAIの協働のあり方や,法的・倫理的課題への対応が求められる。本研究では,特許調査をタスクに分解し,各タスクへのAI適用可能性を探索的に検討する予定である。ChatGPT,Google Gemini,Claude3の利用を予定している。
ChatGPT4,Google Gemini,Claude3 Sonnet,ChatGPT4oそれぞれに対して「特許調査における新規性について教えてください。」「新規性判断手順を具体的に教えてください。」との2件の質問に対する回答を得てから,「下記の<対象発明>について発明の構成要件をすべて抽出して,<先行技術文献>との対比表作成して新規性について判定してください。」という指示を与えて具体的事例の新規性判定を行った。検証対象として特許調査のプロセスと正解公報が詳細に解説されている特許検索競技大会 2021 年過去問1)の電気分野の問題を<対象発明>とした。<先行技術文献>として過去問の正解公報P2015-230545とCyberPatent Desの概念検索の類似度最上位の不正解公報P2016-093155の新規性を判定させて検証した。
ChatGPT4oに対して「特許調査における新規性について教えてください。」
「新規性判断手順を具体的に教えてください。」との質問解答の前後の対比表を比較すると新規性についての質問解答後の対比表は大幅に改善されている。質問解答後の対比表を表4に示す。
ChatGPT4oは「新規性なし」の正しい結論が得られた。表4の構成要件A1の対象発明「顧客が利用する顧客側装置」に対する先行技術文献の回答「発信者が利用する装置(明示されていないが,含意として存在)」とその判定である「一致」は非常に望ましい結果である。正しい判定を得るために事前に新規性について質問しておくテクニックは有効である。Claude3 Sonneは構成要件5で「相違あり」の判断で惜しい結果である。ChatGPT4,Google Geminiはこの過去問に対しては振るわない結果である。正解公報P2015-230545は一番良い条件であることにも注意が必要である。
生成系AIの回答にチェックは必須である。事前に判断のポイントについて質問解答を行い,正しい回答が得られやすいようにするテクニックやより詳しい背景情報を事前に与えておく等のカスタマイズによる正答率向上の可能性を期待できる。