関西医科大学雑誌
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エチルアルコールの中枢神経系および末梢神経系に及ぼす影響に関する電気生理学的研究
谷澤 洋
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1992 年 44 巻 4 号 p. 257-283

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抄録

ウサギの中枢神経系および末梢神経系に及ぼすエチルアルコールの影響について検討した.覚醒反応と誘発筋放電を対象とした実験では,脳幹網様体刺激による覚醒反応と大脳皮質刺激による前・後肢の誘発筋放電の刺激閾値は,エチルアルコールの少量投与により低下し,投与量の増加にともない上昇した.しかし脳幹網様体,海馬刺激による前・後肢の誘発筋放電の刺激閾値は,順次上昇することが認められた.この成績より,エチルアルコールは意識と錐体路系の運動に対しては少量促進,大量は抑制的に作用すること,錐体外路系の運動に対しては抑制的な作用を示すことが考えられる.脳幹網様体の自発性単位放電の放電頻度は,少量投与下では増加し,大量投与下では減少した.この結果はさきの覚醒反応に対する作用を裏づける成績と考えられる.視床のnucl.ventralis anterior(VA)刺激による漸増反応は,用量依存的に振幅の減少を示した.眼瞼微細振動を対象とした実験では,光眼輪筋反射(MV)の振幅は少量投与により減少し,大量投与により増大した.一方,坐骨神経刺激による眼輪筋反射(SMV)の振幅は,用量依存的に減少した.このSMVの成績より,エチルアルコールは疹痛を抑制する作用のあることが考えられる.脊髄反射に対しては,M波,H波および侵害反射性筋放電の順に,より強い促進作用を示した.この作用は,高位中枢からの脱抑制によるものと考えられる.総頸動脈血流量には有意な変化は認められなかったが,大腿動脈血流量には少量投与で減少傾向が認められた.腸管運動には促進傾向が認められたが,1600mg/kgの大量投与下では著明な抑制効果が認められた.トポグラフシステムによる脳波の分析により,少量投与下における速波帯域のパワー値の増加傾向と,中等量投与下における全帯域のパワー値の増加および大量投与下における全帯域のパワー値の低下を認めた.これはエチルアルコールの中枢神経活動に対する少量で促進,大量で抑制の作用を裏づける成績であると考えられる.

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