2006 年 4 巻 p. 15-32
ベートーヴェンは、1912年から1916年ころまでのほぼ4年間、重要な作品を書かなかった時期がある。その時期は、ヨーロッパの状勢がフランス革命後の混乱の中にあり、ウィーンの音楽的嗜好の変化、ベートーヴェンの危機の疾患の悪化など、ベートーヴェンはたくさんの問題を抱えていた。そのような状況の中、ピアノソナタ作品101とチェロソナタ作品102は、寡作期の中で作曲された数少ない傑作といってよい。これらの作品には、その後に現れるベートーヴェンの後期作品群の特徴が散見され、ピアノとチェロという異なった楽器のための作品でありながら、たくさんの類似性が見られる。
ベートーヴェンの後期作品群は、現在でも芸術的価値が高く評価され、演奏の機会も多いが、一般的に、その内容は難解で深い内面性を備えているといわれている。そのため、演奏や解釈において困難なものが多い。しかし、その後期作品群の特徴は、 既に寡作期の作品に現れており、後期作品群への過渡期に作曲された、この2つの楽曲を比較検討することで、後期作品群が難解になっていく方向性を検証し、ベートーヴェンの後期作品群の難解さの背後にあるものを探求することができる。そのことによって、ベートーヴェンの後期の作品をより深く理解し、演奏解釈に反映させる方法についての考察である。