本研究はベートーヴェン L.v.Beethoven が 1814 年に述べたと伝えられている「偉大な鍵盤楽器奏者は偉大な作曲家であった」という言葉を出発点に、18 世紀から 19 世紀初頭の鍵盤楽器教授のあり方を明らかにする試みである。その 手がかりとして、当時出版された鍵盤楽器教本並びに 18 世紀前半に多くの弟子に音楽教授を施したバッハ J.S.Bach の教授法を検討した。その結果、18 世紀中頃までの鍵盤楽器教授は、鍵盤楽器奏法と並んで通奏低音を必ず教え、その延長上で即興演奏・作曲法を教えるという流れになっていたことを明らかにした。つまり、少なくとも 18 世紀中頃までは鍵盤楽器奏者が作曲家となるような鍵盤楽器教授のシステムだったのである。しかし、このような鍵盤楽器教授システムは 18 世紀の中頃以降衰退し、それに代わってより演奏技術の教授に重点を置くようになった。ベートーヴェンの言葉の背景にはこのような音楽教授上の事情があったものと思われる。