2025 年 22 巻 1 号 p. 2-19
日本バスケットボール協会(JBA)は、国際バスケットボール連盟(FIBA)からの圧力を受けて国内男子バスケットボールリーグのプロフェッショナル化(プロ化)に成功した。この事例から、商業の論理、普及の論理、強化の論理、教育の論理等の多様な論理が入り交じり、多様な論理に基づく各アクターの利害が衝突するJBAが、プロ化を成功させた際のリーダーの実践を、制度的リーダーシップを理論的視座として明らかにした。
FIBAが設置したタスクフォースのチェアマンに就任した川淵三郎(後のJBA会長)とその後任の三屋裕子は、人事権を川淵三郎に集約することでプロ化反対派による抵抗の手段を奪う制度設計を行った。さらに組織に残るプロ化反対派の利害を読み解き、それを踏まえた中期計画を策定することでプロ化に反対する根拠を無効化した。最後に残る個々の職員が抱える不安や不満については、非公式なコミュニケーションの場で実践された個別の利害に対するマイクロなマネジメントによって、ガス抜きすることで解消したことが明らかになった。
これまでのスポーツのプロ化に着目した研究は、制度派組織論の正当化概念を用いて説明されはじめているものの、正当化の実現可否がプロ化の成功または失敗に結び付くことを明らかにするに留まっており、プロ化を成功させる組織のリーダーはその必要性が指摘されるが、具体的な行為については明らかにされてこなかった。それに対して本研究で明らかにした制度設計やマイクロマネジメントといった新たなリーダーシップ行動は、スポーツ経営分野における制度派組織論の援用について、大きな理論的貢献があると考えられる。