経営哲学
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投稿論文
  • 駒田 惇
    2025 年22 巻1 号 p. 2-19
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/10
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    日本バスケットボール協会(JBA)は、国際バスケットボール連盟(FIBA)からの圧力を受けて国内男子バスケットボールリーグのプロフェッショナル化(プロ化)に成功した。この事例から、商業の論理、普及の論理、強化の論理、教育の論理等の多様な論理が入り交じり、多様な論理に基づく各アクターの利害が衝突するJBAが、プロ化を成功させた際のリーダーの実践を、制度的リーダーシップを理論的視座として明らかにした。

    FIBAが設置したタスクフォースのチェアマンに就任した川淵三郎(後のJBA会長)とその後任の三屋裕子は、人事権を川淵三郎に集約することでプロ化反対派による抵抗の手段を奪う制度設計を行った。さらに組織に残るプロ化反対派の利害を読み解き、それを踏まえた中期計画を策定することでプロ化に反対する根拠を無効化した。最後に残る個々の職員が抱える不安や不満については、非公式なコミュニケーションの場で実践された個別の利害に対するマイクロなマネジメントによって、ガス抜きすることで解消したことが明らかになった。

    これまでのスポーツのプロ化に着目した研究は、制度派組織論の正当化概念を用いて説明されはじめているものの、正当化の実現可否がプロ化の成功または失敗に結び付くことを明らかにするに留まっており、プロ化を成功させる組織のリーダーはその必要性が指摘されるが、具体的な行為については明らかにされてこなかった。それに対して本研究で明らかにした制度設計やマイクロマネジメントといった新たなリーダーシップ行動は、スポーツ経営分野における制度派組織論の援用について、大きな理論的貢献があると考えられる。

  • 池野 純, 小沢 和彦
    2025 年22 巻1 号 p. 20-31
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/10
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    アッパーエシェロン理論に基づく戦略的転換の研究では、経営者の在任期間が長くなるほど自らのパラダイムに固執し、柔軟性が欠如することによって戦略的転換が抑制されると主張されてきた。つまり既存研究において、戦略的転換には柔軟性が必要であると仮定されてきた。

    一方で、戦略的転換研究と系譜の異なる認知的柔軟性の既存研究によると、認知的柔軟性には正の側面だけでなく負の側面もあると指摘されている。認知的柔軟性がもたらす負の影響を踏まえると、戦略的転換の先行研究のように「経営者の認知的柔軟性が高ければ戦略的転換が促進される」といえない可能性がある。むしろ、認知的柔軟性は戦略的転換を抑制する可能性がある。このような現状を踏まえて、本研究では「経営者の認知的柔軟性が戦略的転換に及ぼす影響について検討すること」を目的とする。

    本論文では、認知的柔軟性の3つの構成要素であるシフト、対立、再形成が戦略的転換に及ぼす影響を検討している。具体的に、シフトの能力が高い経営者は、新しい刺激に柔軟に適応し、自らの考え方を切り替えるため、戦略的転換を促進する。また、対立の能力が高い経営者は、組織内のコンフリクトを和らげられるうえ、組織内の矛盾や相反する意見を受け入れられるため、戦略的転換を促進する。一方で、再形成の能力は、複数の選択肢を多角的に検討することで新しい機会を特定する可能性を高めるものの、意思決定に過度な時間を要して意思決定の遅延や複雑化を招くことで、戦略的転換を抑制する可能性がある。さらに、環境の変化が激しい場合、戦略的転換の実行までに求められる時間は短くなるため、再形成による戦略的転換の抑制への影響は大きくなる。一方で、環境変化の程度が低い場合は、再形成は適切なタイミングでの戦略的転換を促進する可能性がある。

研究ノート
  • 鷲谷 佳宣
    2025 年22 巻1 号 p. 32-41
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/11/10
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    近年、多くの企業が理念浸透と同時に理念改定を実施している。しかし、従来研究では理念浸透過程の検討が中心で、アイデンティティ拡張を含む理念改定プロセス、特に既存価値観を維持しつつ新たな価値観を統合するプロセスの解明が不足している。本研究は、アイデンティティ・ワーク(IW)理論の観点から、この拡張と改定のプロセスを分析することを目的とした。インタビュー調査、文書分析、参与観察を組み合わせた質的単一事例研究とパターン・ランゲージ法で分析した結果、2つの重要な発見が得られた。第1に、IW活動は組織アイデンティティとの融合、個人アイデンティティの拡張、組織アイデンティティの拡張という3つの活動が、組織アイデンティティの原点を基盤に段階的・循環的に展開されていた。第2に、個人アイデンティティの拡張には、組織アイデンティティとの融合を起点とする経路と、自律的な個人の価値観形成による経路という2つの経路が存在していた。本研究の知見は、理念浸透と改定における受動的浸透と能動的浸透の相互作用に新たな理解を提供するものである。

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