抄録
本稿では,東京都に位置する荒川の流域において大規模水害が発生した場合に,大規模な企業間取引のGISデータを用いて,水害がサプライチェーンに与える経済的影響を定量的に推定した。まず,荒川流域の氾濫シミュレーション解析データを用いて,被害を受けて事業継続ができない被災企業を特定した。次に,大規模取引ネットワークデータを用いて被災企業と取引関係によって繋がっている企業を特定し,その産業構造についてネットワーク分析した。最後に,被災区域及び被災区域外の取引先の影響される取引金額について,被災企業の浸水期間(被災期間)や,被災企業の取引先の次数が増加するにつれ影響が小さくなることを考慮し,推計を行った。分析の結果,被災地の企業の取引先は全体の20~30%であり,5次取引先までを含めると全体の約50%であり,被災地以外でも多くの企業が影響を受ける可能性があることがわかった。地域別では,東京や大阪などの大都市の受ける影響が大きく,産業別では,金融,運輸業への影響が大きく,農林水産業への影響が小さいことが明らかになった。また,生産額に関しては全国で最大でGDPの約1.3%の取引金額に影響を与える可能性があるとわかった。