漁港の管理者である自治体は,漁港漁場整備法において,漁港の維持や保全などの責めを負うこととなっている。そのため,漁港の津波対策も「漁港の維持や保全」という観点から必要である。実際,過去に津波が発生したときには、漁港は必ず被害をうけている。そのため,水産庁は漁港やその背後にある漁村,さらには周辺海域まで含めた漁業地域を対象とした,災害に強い漁業地域づくりガイドラインを策定している。このような,水産業とその関連事業者や住民を守るための津波対策の方策をつくるということは重要である。だが,現実には漁港などの津波対策は進んでいるとは言い難い。そこで,こうした漁業地域における津波対策の現状を把握するために,アンケート調査を実施した。この調査結果を,太平洋側と日本海側の比較を通して分析した。その結果,第一に,漁業地域における津波対策の明文化については,ほとんどの自治体で行われていないことが明らかとなった。第二に,具体的な漁業地域における津波対策としては,太平洋側が「検討している」割合が高く,比較して,日本海側が低い結果であった。また,避難に関しては比較的対策が進められつつあるが,それ以外の漂流物や津波火災などにはまだ検討が進んでいなかった。第三に漁業地域における津波対策の課題として,漁港に特化した津波対策は「必要ない」と考えられているわけではないことが明らかになった。今後は,漁港の津波対策が進まないボトルネックを明らかにする必要がある。
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