抄録
これまで,水害の避難行動に関する実証的な調査においては,死者の発生原因に着目して,自然要因・社会要因の課題を抽出する分析アプローチが多かった。しかし,九死に一生を得たような,失敗事例のグレイゾーンに該当する経験からも教訓を得ておくことが肝要である。そこで本研究では,2017年九州北部豪雨で危機に見舞われながらも全員が助かった福岡県朝倉市平榎集落の住民の避難行動のありかたを分析することにした。縦断的なインタビュー調査を実施した結果,集落の在住者85名中,約50名の当日の行動を捕捉することができ,その行動パターンが5 種類に分類できることがわかった。このうち,常に安全な状況にあったと判定できたのは,たまたま集落の外に居た人たちだけであり,それ以外のほとんどすべての人たちが命に関わる危難に見舞われていたことがわかった。このような知見をふまえて,避難行動パッケージに対する実践的な提言-「余裕避難」の提起-を行った。