抄録
本研究の目的は,日本とメキシコの間で地震学に関する科学的知識のあり方を比較すること
にある。著者らはまずそれぞれの国の義務教育カリキュラムを見直し,次にメキシコシティの
大学と未来に津波の来襲が予測される太平洋沿岸のある町で防災教育の実践を行った。
一連の実践を通して得たデータを分析した結果,メキシコのカリキュラムにはプレートテク
トニクス理論の基礎の上に地震の知識を組み合わせて教える意図があり,その体系性は経験的
な知識同士の組み合わせをより重視する日本の教育の盲点であることが分かった。一方で,日
本では地震を震源から伝わる波として教えており,この認知のあり方の欠けたメキシコで地震
は足元の地面が揺れることとして一般的に理解されていることが明らかになった。
この比較に基づいて,著者らはメキシコの学校で教えるための知識のアレンジを行い,科学
的な理論を地域の社会的・文化的文脈に適応させている。このプロセスは,専門家の知識を効
果的な防災教育に結びつける「カルチュラル・チューニング」として理解される。