2019 年 68 巻 2 号 p. 111-125
目的:災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)の創設を期に,地域保健の視点による健康危機管理,特に大災害や医療サージ健康危機管理の歩みを概観し,今後の科学的な実践と評価の可能性を展望する.
方法:1.主な災害,国の施策(地域保健関係),論文等,厚生労働科学研究費補助金事業及び地域保健総合推進事業報告について約30年間の歩み,2.日本公衆衛生学会公衆衛生モニタリング・レポート(MR)委員会報告,3.地域保健の現場の各動向を整理した.
結果:1.災害における施策及び研究の動向として,ガイドラインには記載があるものの実際には事後評価は必ずしも実施されていない.熊本地震以降公衆衛生分野や多分野において論文数が増えている.一方,大災害のたびに分野間連携や需要・供給のミスマッチが課題となってきたが分野間連携システムに関する論文は公衆衛生領域には少ない.被災自治体すなわち受援自治体は主体的に危機管理マネジメントの責務をおうことになるため,平時からの準備が必要である.2.MR委員会活動報告によると,欧米に比べて健康危機管理に関する客観的な記述・評価に関する文献や入手できる機会は少ない.健康危機の種類別検討のみでは体制上不十分であること,危機管理体制強化へ各分野で先行した取り組みが既にあること,産学官が共通して推進すべき危機マネジメントの基本システムである危機管理調整システムがあることが確認された.また,希少性の克服に向けた学術的背景強化が必要である.そのために,平時−有事−事後検証の一貫した危機管理の考え方・手法の確立,基準と評価の標準化,普遍性と可変性,これらを踏まえた学術分野の確立,及び人材育成と持続的発展のためのリソース・ロジスティクスが必要である.3.地域保健の現場にも健康危機管理の改善へと向かう多くの芽生えがある.あらゆる大規模災害にも対応できる健康危機管理体制を構築するために,危機管理の基本である情報集約・分析・判断・実行・評価のサイクルの確立と危機管理を支える学術基盤強化が望まれる.
結論:大規模災害や医療サージに際して地域保健においては,各保健所・自治体にとっては災害遭遇経験の少ない中での対応であり,学術的共通体系のない中では今後も限定的対応にならざるを得ないと考えられる.喫緊の課題として具体的な地域保健の受援体制構築・ハブ機能構築がある.わが国の貴重な災害経験に裏打ちされた学術的検討と併せて海外の先進的な危機管理手法の検討が必要である.施策においては,現状及び学術における検討結果を反映させると共に,よりよい健康危機管理体制構築をリードされることを期待したい.