保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
特集
健康危機管理の科学的根拠の確立に向けた研究開発の推進
―難病とのアナロジーに着目して―
武村 真治
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 68 巻 2 号 p. 137-146

詳細
抄録

本稿では「管理されえないものを管理する」ことを運命づけられた健康危機管理の科学的根拠の確立に向けた研究開発の道筋を,「治療できないものを治療する」という挑戦を続ける難病研究の取り組みとの対比において提示する.

健康危機は,「健康危機事象」,つまり医薬品,食中毒,感染症,飲料水その他何らかの原因(自然災害,犯罪,放射線事故,テロなどを含む)と,「健康危機事態」,つまり何らかの原因により生じる国民の生命,健康の安全を脅かす事態(指揮命令系統の混乱,国民のパニック,避難所の不足,食料・飲料水・日用品の不足,地域保健医療システムの機能低下など)で構成される.健康危機事象は管理が困難であるのに対して,健康危機事態は管理が可能であり,それに対処するための「事態管理技術」を確立することができる.したがって事象ではなく事態に着目して,①ある事象における,ある事態に対して効果的な事態管理技術のシーズを探索する,②その技術が他の事象における同様の事態に適応可能かを検証し,事態管理技術として確立する,③確立された事態管理技術を組み合わせて,特定の事象において発生しうる全ての事態に対応可能な管理技術体系を確立する,というステップで研究開発を推進する必要がある.

健康危機の要件は,難病の要件を適応拡大すると,①発生の機構が明らかでない,②管理方法が確立していない,③希少である,④社会全体への甚大かつ長期的な負担を引き起こす,と定義づけることができる.このうち「希少性」は,科学の進歩(発病(発生)機構の解明)と技術の進歩(治療(管理)方法の確立)による帰結であると同時に,科学・技術の進歩を阻害する要因となっている.しかし難

病研究においては,この希少性を克服するために,「レジストリ(症例登録)の構築」,「パイプラインに沿った医薬品・医療機器開発」,「エビデンスに基づくガイドラインの策定」といった取り組みが進められている.ガイドライン策定にあたっては「クリニカルクエスチョン(CQ)」を設定する必要があるが,現時点では,健康危機管理に関連するエビデンスはきわめて少なく,CQに対してエビデンスレベルの高い推奨文を示すことは困難である.しかしCQはそのまま「リサーチクエスチョン」となり,健康危機管理の科学的根拠の確立に向けた新たな研究開発の出発点となる.

著者関連情報
© 2019 国立保健医療科学院
前の記事 次の記事
feedback
Top